狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのⅩⅩⅥ
―――数歩先を行く黒づくめの青年の背を見つめ、アオイは戸惑いながらも足を運び続ける。彼は迷う事なく校舎の玄関口を通過し、堂々と正門を抜けていく。
(この方…学園の事、随分詳しいみたい。卒業生なのかな?)
「……」
(年齢は…私より少し年上?)
思わず見とれてしまうほどに美しい艶やかな黒髪に透き通った白い肌。そして何より端整な顔に煌めいた孤高の光を宿す瞳が並みならぬ意志の強さを示している。
(きっと私の先輩にあたるのよね…それに私と同じ通学路…この辺にお住まいなのかしら)
「……だろ?」
彼の視線がこちらに向いていないのをいい事に、アオイは青年の容姿や土地勘から色々な事に考えを巡らせていた。
「……」
そのため、彼の言葉に気付かず無言を貫いてしまったアオイ。
「おい、人の話聞いてるか?」
「え?…は、はいっ」
曖昧な彼女の言葉に顔だけをこちらに向けた青年。そしてアオイ様子を目にした彼は不服そうに眉間へと皺を寄せた。
「あのアランって教師…キュリオだろ?って聞いてる」
(…どうしよう…なんとか誤魔化せないかな…)
「な、なんの事ですか?アラン先生はアラン先生ですよ?」
「……」
冷や汗をかきながら平静を装っているアオイに青年の鋭い視線が突き刺さる。
「…心拍数が上がったな。わずかに滲んだお前の汗が体温の上昇によるものではない事ぐらいわかるぜ…」
ゆっくりアオイとの距離を詰めた青年はその瞳を覗き込むように綺麗な顔をギリギリまで近づけてくる。
「お前が覚えてねぇのも無理ないか…言っとくが、俺はキュリオの知人だ。下手な隠し事はしなくていい」
「あ…ごめん、なさい…」
言い逃れしようと考えていたアオイは自分が恥ずかしくなり、申し訳なさでいっぱいの頭を深々と下げた。
「いや…場所が場所だからな。お前が謝ることじゃないぜ」
ポンポンと頭を優しく撫でられ、まるでキュリオに慰められているかのような錯覚を覚えたアオイ。
(この方…お父様と似ている気がする…)
「……」
見た目も口調も何もかもが違うはずなのに、なぜかキュリオを重ねてしまう。
「ん?どうした…」
思考の中で父親であるキュリオと目の前の青年との共通点を探っていたアオイの口は再び止まってしまった。
「アオイ…あんまり俺に見とれてるとキスするぞ」