狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのⅩⅩⅧ
「ティーダ様、ヴァンパイアの王様と同じお名前なんですね。お城に着いたら送っていただいたお礼も兼ねて是非お茶でも…」
ぱっと顔を輝かせたアオイだが、警備兵の表情は険しく歪められていく。
「…ティーダ殿。姫様を送っていただいた事…誠に感謝しております。ここから先は私が引き受けますので…どうぞ貴方様はお引き取りを」
「え…?どうして…」
アオイは戸惑うような視線を警護兵へと向けるが、彼の大きな腕がアオイを守るように広げられた。
「…お下がりくださいアオイ様」
大柄な警護兵はゆっくり大剣に手をかけ、彼の返答次第ではいつでも剣を抜けるよう深く構えた。
「勘のいいやつがいやがったか…所詮ヴァンパイアが悠久で暮らすなんてのは…無理な話なんだよな」
「ティーダ様?」
彼の呟きがうまく聞き取れなかったアオイは首を傾げてこちらを見つめている。
「…なんでもねぇよアオイ。ほら、お前の鞄と弁当だ。じゃあな」
手をひらひらさせ、そのまま歩き出した彼は振り返る事なく姿を消してしまった。
「ティーダ様…一体どうしてしまわれたのかしら…」
「…アオイ様お気をつけください。恐らく彼は本物の…」
構えを解いた警護兵はアオイへと向き直ると馬の手綱を引きこちらに戻ってきた。
「本物の…?」
長身の彼を見上げたアオイの視界に黒い影が一瞬横切って消えた。
「ヴァンパイアの王・ティーダだ」
「…き、貴様…っ!!」
「…お逃げください姫様っっ!!」
「えっ…」
瞬く間に警護兵の背後へと回り込んだティーダが手刀を彼の首の根へ深々と打ち込んだ。
「…っぐはっっ!!」
強烈な一撃を食らい、気絶した兵士の体がドサッと崩れ落ちた。
横たわる男の傍でたたずむ男の姿を確認したアオイは大きく目を見開き、驚きにその身を震わせる。
「ティ、ティーダ様…?」
「俺は今日、お前の騎士(ナイト)になってやると言ったんだ。ちょうど馬もあるしな…このまま城を目指すぞ」
「お待ちくださいティーダ様!彼をこのままにしておけませんっ!!」
ティーダに軽々と抱き上げられたアオイの視線は倒れた警護兵を気遣い、一向にこちらを見ようとしない。
「…黙れアオイ。他の男の心配なんかしてんじゃねぇよ」
顎を掴まれ…無理やり視線を絡ませられたアオイの抵抗も虚しく、その体は強く彼の腕に抱きしめられ馬は走り出した。
「いやっ!離してっっ!!」
「…いい加減にしねぇと…その綺麗な体、今ここで穢すぞ」
「…っ…」
黒曜石のように黒光りしていたティーダの瞳が血のように赤く染まっていく。この世のものとは思えないその危険な美しさに魅入られ…アオイの神経は完全に麻痺し、思考回路さえティーダに支配されたかのように抗う事をやめたのだった―――。