狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのⅩⅩⅩⅢ
「はい…」
部屋の入り口にある脇机へと鞄と弁当を置いたアオイは急ぎ足で湯殿へと向かう。
わずかに怯えた様子を見せるアオイの背にキュリオは小さくため息をついた。
「真っ先に私の部屋に来たことは褒めてやるべきだったな…」
鞄や弁当を持ち、制服のままキュリオの元を訪れたアオイ。彼の言動や行動が気に入らないのであれば自分の部屋に閉じこもる事も出来たであろう彼女の素直さにいつも感心させられる。
すると…扉から離れたキュリオの部屋を再びノック音が響いた。
「はいれ」
『失礼いたします。キュリオ様』
姿を現したのは昼食の伺いを立てにきた侍女たちだった。
「姫様も戻られた事ですし…昼食はお庭で取られますか?ご要望などありましたらジル様にお伝えいたしますので、何なりとお申し付け下さいませ」
「そうだな…温かいスープと飲み物をこの部屋に運んでもらえるだろうか。ジルの弁当があるから他にはいらないよ」
「かしこまりました。では、姫様の分もご一緒にお運びいたしますね」
「…あぁ、頼む」
一礼し、部屋を出ていく侍女たち。その頃、湯殿では…
ぶくぶくと頭まで浸かり、キュリオの行動に戸惑いを隠せずにいるアオイは不安を一掃しようと潜り続けている。
(ティーダ様のお話、しないほうがいいよね…でも、どうしてこうなっちゃったんだっけ…)
(たしかあればシュウがローストビーフがいいって話をしていて…そこからヴァンパイアの話になって…)
ぼんやりそんな事を考えていると…
『アオイ、そろそろ食事にしようと思うのだが…どうかな』
(…あ…)
湯から顔を上げたアオイはキュリオの言葉に反応し、声を上げた。
「すぐ上がります!」
アオイは傍にあるタオルを手に取り、脱衣所へと続く扉を開け放つ。
すると…驚いたように目を丸くしているキュリオの姿があった。
「そんなに慌てずとも…」
「…ひゃっ!!ごめんなさいっ!お父様っ!!」
ほぼ裸体に近い肌を曝してしまったアオイだが、なぜかキュリオに謝罪の言葉を述べ…面積の狭いタオルで必死に体を隠し始めた。
手さぐりに替えの服を探していたアオイは急激に青ざめ始める。
(き、着替えが…ここ私の部屋じゃなかったっっ!!)
そして…痛いほど視線を感じるキュリオの眼差しに…
「…着替えがないのかい?」
妖艶な笑みをたたえたキュリオがまたも部屋に通じる通路を阻むように立ちふさがっているのだった―――。