狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのXLⅢ
そして更に時間は過ぎていき…
「…いい加減に目を覚ませ女。お前もセシエル様に仕える身なら…」
「…ぅーん…」
(お父様…もうちょっとだけ…)
頭上から降ってきたキュリオの声に多少違和感はあるものの、まだ重い瞼を開く気になれないアオイはシーツを手繰り寄せ、軽く寝返りを打った。
「…呆れて言葉も出ないな。第一、なぜ私の部屋で寝ている?」
「…お父様…ごめんなさい。湯浴みの時間…削ります、から…もう少し…寝かせてくださ……」
「お父様?」
「……」
眉間に皺を寄せた少年は空色の瞳を吊り上げ、大きく息を吸い込むと…
「女っ!!寝ぼけるのもいい加減にしろっ!!さっさと起きて自分の仕事に取り掛かれっっ!!」
「…っは、はいっ!!」
耳元で叫ばれ、ビクリと飛び上がった少女。
「…ん?…女、お前もしかして…」
「…はい…お父様…?」
いつもより声のトーンが高く、しかも自分の事を"女"と呼ぶ事に驚いたアオイはゆっくり父親がいるであろう己の背後を振り返った。
「……」
「……」
互いに目が合い、無言の二人の視線は上下を移動する。
「もしかしてお前…セシエル様の恋人、なのか?」
「…セシエル様?って?…それよりお父様、そのお姿…」
アオイが纏っている銀の刺繍が施された白のドレッシーなワンピースを見て少年は驚き、少女は5~6歳の少年にしか見えないキュリオの姿を見て驚いている。
「…さっきからお父様って…一体なんの事だ?それに先に質問した私の問いに答えろ。女」
「…へ?…す、すみません。えっと…まず、セシエル様がどなたか存じ上げません。それに私にはアオイという名前が…」
「…女…セシエル様を知らぬなど戯言を…どうやらまだ夢の中にいるようだな」
小さなキュリオに大きくため息をつかれ、アオイは驚きよりも戸惑いが勝り…
「ま、待ってお父様っ!お父様こそ何をおっしゃっているんです!?それになぜ子供の姿など…」
「私は元より姿を偽った事などないぞ?誰と勘違いしているのだ…」
怪訝な眼差しを向けられ、アオイはますますパニックに陥ってゆく。
「…えぇええっ!?」
(…あれっ!?私がおかしいのかしら…っ!?それともお父様が言われるように、私本当にまだ夢の中とか…)
「…きっとそうよね…」
うんうん。と勝手に納得したアオイは再度、触り心地良いシーツを手繰り寄せ…その体をベッドに沈めていく。それを見た幼いキュリオは…
「…こんのっっ!!女!寝るなっ!!
これからお前の正体暴くっ!!セシエル様に貴様の適切な処遇を決めていただくぞっっ!!」
「…うぅ…ま、まだ眠っていません…だからお父様、セシエル様ってどなたですか…」
こうして全てが謎のまま、アオイは幼いキュリオらしき人物に連れられ部屋を後にしたのだった―――。