狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのXLⅧ
意味深な言葉を発したセシエルの横顔を見つめ、アオイが問いかけるが…
―――コンコン…
「キュリオが戻ったようだね」
「あ…」
彼の言葉を気にしながらも幼いキュリオに備えるべく、アオイは居住まいを正した。
『セシエル様、お茶をお持ちいたしました』
「ありがとう」
『失礼いたします』
―――ガチャッ
優雅な動作でセシエルとアオイの前に紅茶を差し出すキュリオは完璧なまでに作法が行き届いていた。
(やっぱりお父様はすごい…こんなに小さな時から色々な事が身について…)
「……」
思わずその完璧な動作と、カップが大きく見えてしまうほどに小さいキュリオの背丈にギャップを感じ、クスリと笑みをこぼしてしまうアオイ。
「何を笑っている…アオイ…じゃなくて、アオイ…さ、さま…」
セシエルの"イイ人"と言われてしまえば、たちまち彼女は自分の上に立つ者として扱わなければならない。それがキュリオは不服なようだ。
「…い、いえっ…"さま"はセシエル様だけで結構です…私はそのような立場ではないのですから…お父様、じゃなくて…っ!!キュリオ様…」
淹れたての紅茶に口を付けながら、二人のやり取りを微笑ましく見つめているセシエル。
「ふふっ、君たちはどこか似ている部分があるね?…そうだ…良い事を思いついた」
彼はカップを置き、ポンと手を叩くと…美しい顔を更に輝かせ言葉を発した。
「…アオイさんにキュリオの先生を頼めないだろうか?」
「…えっ?」
思わぬセシエルの提案に驚きを隠せないアオイと、
「…えぇえええっっ!???
…っお言葉ですがセシエル様っ!!私がこの者から学ぶような事はもう何も…っ…」
「…(お、お父様それはちょっと…失礼な言い方じゃ…っ!?)…」
「うん?彼女は良いところをたくさん持っているし、とても魅力的な女性だとは思わないかい?」
「みりょく…てき?」
ジィ…とキュリオの視線が突き刺さる。
(や、やだ…小さいとはいえ、お父様に見つめられるのは…どうしても照れてしまうわ…)
「……」
ほのかに頬を染め、俯いたアオイにキュリオは…
「…っ…!!な、何をおっしゃっているんですかセシエル様っ!!からかわないで下さいっ!!…彼女は貴方様の…っ!!」
アオイ以上に真っ赤に染めた顔を必死に背けた彼は、そそくさと逃げるようにワゴンを運び出そうと扉に向かって歩き始めた。
「…という訳で、アオイさん頼まれてくれるかな?」
ニコニコと笑顔を向けてくるセシエル。
(…セシエル様は小さなお父様に柔軟さを求めていたわ…今後の悠久を治める素晴らしい王様になるためにも…きっと大切な事…)
「…わかりました。精一杯務めさせていただきます。セシエル様」
「あぁ、よろしく頼むよアオイさん。必要なものは全てこちらで準備させよう」
こうして先代・セシエル王の元へとやって来てしまったアオイは、幼いキュリオの指導者としてしばらく身を置くこととなるのだった―――。