狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのXLⅨ
悠久の王・セシエルの後ろを歩きながら、アオイは悠久の地を駆けぬける銀の風を胸いっぱいに吸い込んだ。
(…これがセシエル様の治める悠久の大地…彼の聖なる力に心が満たされていく…)
穏やかな光の中、夢見心地で進むアオイをふと振り返ったセシエル王。
「…ここが気に入ったかい?」
「はい、とてもっ」
若葉色の瞳を見つめ返しながら、笑顔で答えたアオイを眩しそうに見つめるセシエル。そして彼の繊細な指先は、風に靡いたアオイの髪を優しく撫でる。
「そういえば…アオイさんは私やキュリオの事を"お父様"と見間違えていたようだが…」
「君の家族は近くにいないのかい?」
彼は咎める様子もなく、ただ問うように小首を傾げ、形の良い唇は美しい弧を描いている。
「あ…えっと…」
(どう説明したらいいんだろう…お父様の部屋で声が聞こえて、気が付いたら小さなお父様の隣で眠っていて…)
(そして目の前にいるのが先代の王様だけれど…私は次の代の王様の娘で……)
「す、すごく近くにいるんですけど、ちょっとわけありというか…なんというか…お二人をお父様と間違ってしまったのは本当にそっくり?…そっくりというか…本物というか…?…」
あたふたと、まとまらない言葉を繰り返すアオイはどう見てもあやしい。しかし…
「無理に聞き出してすまなかったね。私はアオイさんを疑っているわけではないんだ。ただ…」
「…ただ?」
「君の事をもっと知りたいだけだから」
「…セシエル様…」
―――不思議な感覚だった。
彼の言葉ひとつひとつが深い愛のようにアオイを優しく包み込み、まるでセシエルのあたたかい腕の中に守れらているような安心感に満たされていく―――。