狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのLⅡ
「…どうして私なんか…」
アオイにはわからない。なぜこれほどまでに完璧な彼が自分の事を好いてくれるのか…。
「そうだね…一目惚れという言葉が適切だと思うのだが、そうだ…大切なことを聞き忘れていた」
「…?」
「…アオイさんに"イイ人"がいるのかどうか、聞いてもよいだろうか…?」
「…私にとってお父様がすべてなんです。と言っても…あまり他の男性と交流がないので、きっとこれから先も…"イイ人"をつくる必要はないのかなって思っていたりもしています」
「……」
普通では考えられない事をさらりと言えてしまうアオイが、"お父様"とどんな人生を送ってきたか…セシエルには手に取るようにわかる。
(彼女にはおそらく母親がいないのだろう…そして父親と娘、互いが支えとなってその大半を過ごしてきたに違いない…そして…)
(アオイさんを縛っているのは間違いなく…彼女の父親だ)
「素晴らしい親子愛だ…しかし、お父様を"見送る"まで傍を離れないつもりかい?」
セシエルの言う"見送る"は死を意味している。つまり…父親が死ぬまで傍にいるつもりかと彼は聞いているのだ。
「…いいえ」
セシエルの探るような視線にアオイは小さく首を振った。
「私のほうが先に死んでしまうから…傍に居て下さるという言葉を使うなら、それはお父様のほうかもしれません」
「……」
アオイの言葉を聞いたセシエルはその眼差しを鋭くし、彼女の体を念入りに見つめている。やがて安心したように息を吐くと…
「…どうしてそんな事を?君はどこも悪いわけではなさそうだが…」
するとアオイは笑って答えた。
「今度は私の番ですセシエル様。私も聞きたいことがあったんです。よろしいですか?」
「あぁ、アオイさんの役に立てるなら…なんでも聞いてくれて構わないよ」
「じゃあお言葉に甘えて…」
スゥと一呼吸置いたアオイ。
「…見送るのはお辛いですか?」
キュリオの長年抱えていた痛み…それを先代の彼はどうやって乗り越えたのだろう。キュリオが自分に執着するあまり、自分の死後…彼がどうにかなってしまうのではないかとアオイは心配なのだ。
「…君という人を見つけてしまった今の私に…その質問は残酷だよ」