狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのLⅤ
銀髪の少年は自室に戻り、分厚い書物をめくりながらブツブツとひとり異論を唱えていた。
「…あの女から一体何を学べというのだ?だいたいセシエル様はいつも唐突で…」
苛立ちを隠せずにいる小さなキュリオはほぼ暗記してしまったページに目を通すわけでもなく、ただその文字を眺める程度にとどめている。
「アオイを"いい人"だと言ってみたり…」
キュリオの語尾が徐々に小さくなっていくのは、何かしら不満があっての事だろう。
(あの女…セシエル様にそう言われて満更でもない顔をしていた…)
「……」
そしてしばしの無言の後、羽ペンに手をかけた彼は考え事をしているせいか背後の気配に気づかなかった。
「キュリオ様、何を読んでらっしゃるんですか?」
「…っ…!!」
髪の長い少女の影と声が意識に混じり、ビクリと肩を震わせたキュリオ。
「お、お前…っ!!部屋はノックしてから入れと教わらなかったのかっ!?」
「ごめんなさい、返事がなかったものですから…」
「…返事がなかったら入らないのが普通だろう」
「はいっ以後気をつけますっ」
(…どうせまたやる。言うだけ無駄だな…)
「……」
「…キュリオ様?」
「…悠久の歴史について学んでいるところだ。その後は魔導を学ぶ」
羽ペンを揺らし、積み上げられた分厚い書物に目配せしたキュリオ。
「こ、こんなにたくさん…?」
(えぇっ!?私が今のお父様くらいの頃ってこんなの読んだことなかった…)
「まったく…お前も驚いていないで少しは悠久の事を学んだらどうだ?」
半ば呆れ顔で一冊の本をアオイに手渡そうとすると…
「ん?…お前何を持っている」
すでに彼女の手には可愛らしい表紙に飾られた薄めの本がある。
「私はキュリオ様の先生ですっ!だから一緒にこれを読もうと思って持って参りました!」
「…なんだそれは」
「童話(フェアリーテイル)です。私がキュリオ様くらいの時、よくお父様に読んでいただいたものなんです」
目の前に本をかざしたアオイは懐かしそうに指先で背表紙を撫でている。
(お父様に読んでいただいた大好きな絵本…この時代にもあったなんて)
アオイはセシエルに頼み、思い入れのあるこの絵本を探してもらった。あまりそのような書物に目を通したことのない彼だったが、すぐに見つけ手渡してくれたのだった。