狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのLⅧ
「失礼いたしますっ!セシエル様!」
広間のソファでくつろいでいた彼のもとに腹心の大臣からの声がかかる。
「どうかしたかい?」
「……」
顔をあげたセシエルの前で一礼した大臣は無言のまま王の瞳を見つめ続けた。
「…黙っていたらわからないよ。言いたい事があるなら話してみなさい」
怪訝な顔をした大臣に対し、淡々と告げるセシエル。どんな時にも動じない彼は、周囲の動き…そのほとんどを常に把握しているため、慌てた様子を誰も見た事がない。
(…おそらく彼女の事だろうな)
「で、では…恐れながら申し上げます。…キュリオ様の"教育係"という名目でお傍に仕えているあの少女は…セシエル様がお連れになった者というのは誠でございますか…?」
「あぁ。それは本当だ…それともうひとつ。彼女はキュリオに仕えているわけではない」
「仕えているわけではない?…っでしたら尚更、教育係なぞ城にいくらでも…っ!素性の知れぬ女を招き入れるなどセシエル様らしくないのではありませぬか…っ!?」
興奮気味の大臣はその身を乗り出し、セシエルに詰め寄った。
「…口を慎め。彼女はこの悠久で第二位の地位となる女性だ」
「第二位…!?ま、まさかセシエル様…っ…」
絶世の美を誇る彼の顔がピクリと動く。そして…穏やかだったセシエルの顔色が瞬く間に変化し、恐れおののいた大臣が一歩、二歩と後ずさる。
「キュリオの教育係としたのも、彼女を見込んだ私の計らいだ。…今後口出しは一切無用のものとする」
「はっ!!…かしこまりましたっっ!!」
悠久の第二位…つまりセシエル王の伴侶、もしくは養子のどちらかである。滅多に冗談を口にしない彼がこんなに大事なことを思い付きで言うはずがない。
セシエルに圧倒された大臣が広間を退出し、キュリオの"教育係"として城に住まう事となったアオイの噂はたちまち場内へと広がっていくのであった―――。