狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのLXⅣ
「あぁ、もちろんだよ…。余計な摩擦を生み出さないためにも努力は惜しまないつもりさ」
泣き崩れるアオイの頭を抱きかかえるようにセシエルは片膝を付きながら話続ける。
「今のキュリオは自我が勝っている…。あのままではいつか民と衝突してしまうかもしれない。己の明確な意志と、相手の気持ちに気づかなければ…歩み寄る事など不可能だからね」
「…民が多ければ多いほどまとめるのは難しくなる。平和とは個人の視点によって様々だからね。時には王が直接手を下す事も考えなくてはならないだろう」
「…はい…」
「そして、決断を誤る事は絶対に許されない。独裁にならないためにも普段の生活の中で…キュリオにそれを身につけさせようと考えていたのだが、なかなかそのような機会に恵まれていなくてね」
セシエルが言いたいのは現時点で悠久に争いの兆候はなく、ただ…心を通わせ、思いやる相手がキュリオに存在していないことが悩みの種だというのだろう。
「セシエル様…」
「…なんだい?」
顔を上げたアオイの眼差しはまだ涙に濡れて光っている。そして若葉色の彼の瞳を見つめながら静かに呟いた。
「…セシエル様が第一位の王様って、すごくわかる気がします。あ…上から目線でごめんなさい」
ふと気が付いて、萎縮したアオイにセシエルは優しく微笑んだ。
「…貴方が思っている事、すべて聞かせて欲しい。…と、少し前にも言っただろうか?」
彼の白く、長い指先がアオイの涙を連れ去っていく。
「…はい」
小さく笑ったアオイの髪をセシエルは愛おしそうに手櫛で梳いている。
「…セシエル様は感情に流されず、物事の本質を見極める目をお持ちの素晴らしいお方だと思います」
「それは…褒め言葉と受け取っても良いのかな?」
「もちろんです。そして…どんな事があっても、私はセシエル様の味方です」
「……」
アオイのその言葉を聞いたとたん、セシエルの顔から笑みが消えた。
「…セシエル様?」
彼の表情を目にし、不安に駆られたアオイは自分の顔の近くにあるセシエルの手を強く握りしめた。
(もし、命を狙ってきた民が君だったら…私は神剣を振り上げることは出来ないだろうね…)
「大切な人の存在が…諸刃の剣というわけか…」
「え…?」
一度目を閉じ、穏やかな笑みを浮かべたセシエル。
そして物騒な言葉を耳にしたアオイの表情がどんどん沈んでいくのがわかる。
「いや、そんな終わり方も悪くないと思った。それまでの君を独占出来るのなら…尚更ね」
「セシエル様…?」
心配そうにこちらを覗き込む彼女の瞳はとても美しく、清らかだ。
アオイがセシエルの命を狙うなど、万が一にも有りはしないと言い切るには十分すぎるほど誠実な眼差しだった。
「なんでもない、私の独り言さ。それと…ひとつ…」
そういえば…というように彼の視線がアオイの背後にある机へと注がれた。
「君が気に入っているという童話(フェアリーテイル)、実はあの物語…私も何度か読んだことがあるんだ」
「…?」
意図を理解できずにいるアオイはキョトンとした眼差しで彼の言葉に耳を傾けている。
「あの物語で"王は存在していない世界"という記述はない。その説明をしなかっただけかもしれないが…」
「私が初めてあの話を目にした時に感じた事を率直に言おう」
「は、はい…」
あまりにも真剣なセシエルの声色は、たかが童話の思い出話をするにしてはおかしい。自然とアオイの体に緊張が走った。
「私は…」
「物語の主人公である彼女こそが王なのだと思う」