狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのLXⅤ

「……」


パチクリと瞳を瞬かせたアオイ。
そのような考えはまったくなかったため、セシエルの物事の捉え方に改めて感心させられた。


「それは…思ってもみませんでした。あの…セシエル様はどのようなところからそう感じたのかお聞かせ願えますか?」


何度読み返してもアオイにはそのような場面は見当たらない。慌てて立ち上がり、本を手にしたアオイは再びセシエルのもとへとやってきた。


「そうだね…まず彼女が誕生した際"荒廃した世界"だということがわかるだろう?」


「はい…」


そもそも、彼女が捨てられてしまったのはこの世界が荒れており、人々の生活が困窮しているからなのだ。希望なく、色褪せた世界―――。


なんと物悲しい始まりなのだろう。


「彼女が成長するにつれて、少しずつ花が咲き始めている。物語の好転を表しているのかもしれないが…」


「…たしかにそうですね」


たかが童話をこれほど深く理解し、まるで書き手と向き合っているような伝わり方は、おそらくセシエル以外考えられないだろう。そして彼は1の情報から100を得られる人物だと今さらに感服させられる。


「そして物語の後半、彼女は敢えて特別な人物を作ろうとしない様子が垣間見える。これは王に見られる典型的な行動と似ているんだ」


「あ…」


(寿命があまりにも違い過ぎるんだった…私とお父様のように…)


「さらに進むと…親身になってくれていた友人の変化が著しいとは思わないかい?なのに彼女は若く美しいままだ」


「わ、わたし…てっきりこのあたりは雑に描かれているのかと…」


「ふふっ、ここは主人公以外、手を抜かれてしまったと思われても仕方がない絵だね」


「それに…最後に大切な友人を残して旅立ってしまった少女はこれまでに何度もその命を狙われていた。彼女亡き後、得られるものが大きいと思われていたからこそ執拗に狙われるのだと私は見ていた」


「そうですね、そういえば…あまりにも不自然だったかもしれません」


主人公の少女は特別、財力があったわけでもなく…権力さえもたぬ普通の人間なのだ。感謝される事はあっても、命を狙われることに違和感を感じたアオイ。


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