狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その3

学園際の準備で遅くなり始めた頃、アランはアオイの食事だけを用意し、彼女のもとへと運ぼうとしたのだが…

料理を目にしたアオイは頑なに拒絶の意を示した。


『アラン先生、その…皆は何も食べていないんです。私だけいただけません…』


『…私が付き添う事を条件にこの件は承知したが…お前は私のいう事をひとつも聞いてくれないのかい?』


『いえ…そういうわけではっ…、ただ、学園にいるときは普通の子たちと同じように過ごしたいんです。だから…』


(どう言えばわかってもらえるんだろう…)


なるべくアランの気を損ねぬよう、言葉を選びながら続けようとするアオイ。


『そうか…』


すると小さくため息をついたアランが思いもよらぬ行動にでた。


『…ならばクラス全員分の食事を用意させよう。これで文句はないね?』


『え…?』


一度姿を消したと思ったアランの傍に控える城の侍女たち。その素性を隠すため、わざわざカフェの店員のような今時の服に着替えているのがわかった。


『み、みんな…』


唖然としているアオイは遠くにクラスメイトたちの声を聞きながら、見知った顔に戸惑いを隠せないでいる。


『あぁ…姫様!こんな遅くまでさぞお疲れでしょう…私たちに出来る事がありましたら何なりとお申し付けくださいませ!!』


『お飲物もたくさん用意してございますっ!姫様の好きなミルクも飲みきれないほどお持ちいたしましたっ!!』


一国の姫であり、絶対的な王の愛の中から飛び立ったアオイを彼女らはとても誇りに思っていた。


『姫様に言い寄る愚かな男どもはおりませぬかっ!?』


『キュリオ様がじっとしていられないのも無理はありません!!私たちが交代で姫様の護衛をいたしますわ!!!』


『ちょっと待って…皆声が大きいよ…』


『…姫様、ジル様も心配なさっておりましたわ…許可さえいただければいつでも参上いたしますとのこと、伝言を預かっておりましたの…』


と、控えめに発言した女官が心配そうにこちらを伺っている。


『ごめんね、ありがとう…』


顔を上げたアオイの視線の先に、王宮で使用している数台の豪華な馬車が見えた。
もちろん暗がりの中とはいえ、生徒たちに見つからぬよう街路樹の向こう側にとめてある。


そして改めて彼女らが引いているワゴンを見るとすごい量だ。


(こんなにたくさん…お父様はきっと、この学園全員分って私が言ったら本当に用意してしまいそうだわ…)


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