狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その6

こうしてアランが付き添うことを条件にこの場所にいる事ができるのだから、アオイは間違った事を言ったつもりはなかった。


すると、突然視界が陰り…額にあたたかいものが触れる。


「……?」


ふわりと良い香りに包まれ、アオイの脳裏を…とある場所がよぎっていく。


(お父様のベッドにいるみたい…)


―――眠る前、誰にも邪魔されず肌を寄せ合う二つの影。


大好きなキュリオの胸元に顔を埋めると、髪を撫でる優しい彼の手が降りてくる。


『最近私が忙しいばかりに一緒に居てやれなくてすまない…お前には寂しい想いをさせてしまっているね』


『大丈夫です…お父様はお仕事なんですもの。私もワガママばかり言ってられません…』


そう言いながらキュリオの胸元を強く手繰り寄せたアオイ。


彼女が10歳を過ぎたあたりから、先伸ばしにしていた遠出の公務を再開し、朝早くに出かけ…夜遅くに戻るキュリオ。


本来ならば泊りがけでこなす予定も城で待っている愛しい娘に逢うため…同行した大臣らをその場に留まらせては単身帰城する悠久の王。


『おかえりなさいませ!キュリオ様!!』


『……』


城の巨大な扉が開かれると、出迎えた従者たちへ脇目も振らず…キュリオはその奥、正面に佇(たたず)む小さな少女へと小走りに駆け寄った。


『アオイ…遅くなってすまない…っ…』


わずかに息が上がっているのは、幼い少女が間もなく就寝時間を迎えてしまうギリギリのところを急いだからだろう。


『…お父様っ!おかえりなさい!!』


外套も外さず、熱い抱擁を交わす二人の姿に、皆のあたたかい眼差しが注がれている。


『あぁ、ただいま…』


アオイはキュリオの香りに安堵し、キュリオもまた彼女の甘く優しい香りに飢えていた。


『…私がいなくて寂しかったかい?』


手を繋ぎ、広い階段を上がっているとキュリオに顔を覗き込まれ問われる。


『……』


しかし、口を閉ざしたアオイは俯いたまま何もしゃべらない。そのかわり、繋いでいる手に力がこもった。


『…アオイ?』


わずかに驚いたキュリオだが、素直なアオイの心境が手にとるようにわかる。


(アオイが無言になるのは何かを我慢している時…本当に優しい子だ)


ふっと目元に優しい笑みを浮かべ、キュリオはアオイの小さな体を抱き上げた。


『お、お父様…っ?!』


慌てふためく彼女が愛おしい。

相手の置かれた状況を判断し、自分の気持ちを制御できるアオイを親として誇りに思うキュリオ。


しかし…本音は違う。


『私はお前に逢えずとても寂しかった。アオイも同じ気持ちだったら嬉しいのだが…私の独りよがりだったかな?』


『…っ…』


アオイはまだ小さい。
こう言えば相手が喜ぶ、喜ばないの判断をすることが出来ないのだ。そして、それがわかるようになったとして、彼女の性格から計算高い女になるとは思えない。

だが、それによって喜ぶ人物がここにいる。


『…アオイの気持ちを聞かせて欲しい。私には隠さないで…』


呟きながらキュリオの唇がアオイの柔らかな頬をなぞる。心の奥にしまった彼女の本音を探るように穏やかな口付けが断続的に与えられる。

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