狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その１０

しかし…アオイが赤子の頃、彼の腕の中でそれに興味を示し…


『……』


アオイの真ん丸な瞳に見つめられたキュリオは、彼女の意図を把握できず反応が遅れてしまった。


『…うん？なにを見ているのかな？』


『…んぅ…』


おずおずと伸びてきた小さな手がキュリオの目元をなぞり…


『…っ…！』


彼女の指にかかった伊達眼鏡が整った鼻筋から滑り落ち、アオイの額を直撃してしまった事件があった。


当時のキュリオは大慌てし、それからというもの…伊達眼鏡は机の奥へと封印されていたのだった。


『お父様、私もうイタズラしませんから、どうぞお使いになってください』


『いや…これが私たちに隔たりを作っているかと思うと、案外不要なものだと気付いたんだ』


彼のいう"隔たり"とは互いの間にある"異物"を示している。

決して仮面やマスクをしているわけではないため、そのような障害にはならないはずなのだがキュリオは気に食わないらしい。


『そうだな…もし次に使うとしたら…』


『…顔を隠す、もしくは表情を悟られたくないときだろうね』


ふふっと上品に笑ったキュリオ。

いつも美しい笑みを浮かべ、嫌な事を顔に出さない彼は後者に該当しないだろうと思っていたアオイ。


しかし…


以外とそれは早く訪れてしまった。


『…すまないアオイ。私がアランであり続けるにはこの方法しか残されていないようだ』