狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その36

「…キュリオ、よく聞きなさい」


「はい、セシエル様」


「…この夢で死んではならない。この世界は私が作り出した…云わば"異空間"の一種だ」


「なんですって?」


わずかに目を見開いたキュリオ。
それもそのはず、彼のよく知る人物たち…生徒や教師、アオイや彼女の友人たちまでもが間違いなく存在しているのだ。


「…引きずり込むのはほんの数人の予定だった。
しかし…どういうわけか私にもわからないのだが、恐らく君たちの記憶が鮮明に投影された為だと思われる」


「まさかセシエル様…これほどの人数をあれから守れと…?」


正気を失ったセンスイを一瞥した後、キュリオは避難に走り回っている大勢の生徒たちに目を向けながら表情を硬くした。


「心配いらないよ。生徒たちは皆、実態のない幻のようなものだ。もちろん君の従者もね。この"異空間"に実体をもつ人間はそれほど招待出来ない。定員オーバーと言っておこうか」


(…生徒たちと従者?)


「なら…その中にアオイは含まれておりますか?彼女は先ほどまで私と共に行動していたんです」


安堵の色を浮かべたキュリオの表情が一変、彼女の身を案ずる父親の顔に変わる。


「…すまない…それが何とも言えないんだ。
彼女が夢でしか逢えない、この中の誰かへ強い想いを抱いてたとしたら…その存在を感じとったアオイさんが自ら飛び込んだ可能性も考えられる…」


(…夢でしか逢えないこの中の誰かへ…強い想いを…)



"…お願いですお父様っ…!センスイ先生たちを助けてっ!!"



センスイを守るように立ちはだかり、叫ぶアオイ。

しかし…懸命な彼女の願いは無情にも聞き入れられなかった。

愛しい娘を連れ去ったセンスイをキュリオが手助けするなど万が一にもありはしない。



"…どう、して…?"



ポロポロと零れ落ちるアオイの涙をキュリオはあの時ただ見つめていただけだった―――。


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