狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
その50
切れ長の瞳が後方のセシエルらを嘲笑い、スラリと抜いた脇差を構えると…
「今のお前がその力を使えば共倒れだ…センスイ」
―――ザシュッ…
『…き、貴様ッッ!!ヤ…マト…ッ…!!!』
センスイの返り血さえ浴びる事なく、その胸に斬撃を浴びせたヤマトと呼ばれる青年はすでに彼の背後へとまわっている。
(…速すぎる…目で追えなかった)
「……」
唖然とするキュリオ。
彼の目にはヤマトと呼ばれる青年が刀を構え、一歩踏み出したようにしか見えなかった。
そして同じく、その青年の刀には輝く宝珠がひとつ埋め込まれている。
顔だけをこちらに向けたヤマトが口を開いた。
「エデン殿、なぜ教えてあげなかったんです?」
「…教えるってお前…一体なにを…」
とぼけているわけでもなく、ヤマトが何に対してそう言っているのか眉間に皺を寄せて考えているエデン。
「…あぁ、本当に知らないだけか…」
カタナについたセンスイの血を払うと、ギロリと三人の王を睨んだヤマト。
「…俺たちを簡単に倒せると思わないほうがいい。むしろ標的(ターゲット)にならないよう…せいぜい気を付けることだ」
体ごと向き直ったヤマトもセンスイと同じく"着物"と呼ばれる和の装いに身を包んでいる。
藤色の髪は高く結われ、今のセンスイが彼の姿を真似たものだと知っているのはエデンを含む…そちら側の人間だけだろう。
「…我々がお前たちに怖気づくなどありはしない。愛する者を脅かす存在はどんな理由があろうとも徹底的に排除する」
堂々と言い放ったキュリオにヤマトが口角を上げ、薄ら笑いを浮かべながら吐き捨てた。
「…昔、そうやって意気がっていた王のひとりが俺たちに倒された事…覚えておくんだな」