狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その63

一向に出てくる気配のない扉の前。


(そうだ…アオイが目覚めたらあれを見せてやろう)


気を紛らわせるためか、キュリオは急いであの魔導書を取りに部屋まで戻り、もう一度アオイの部屋の前へと帰ってきた。


(まだセシエル様は中に…)


二人の気配に入り込む余地はないと判断したキュリオは寂しげに肩を落としたが、気を取り直すように部屋の前で膝をついた。

この年齢で上級魔法さえ使いこなす神童のキュリオだが、たったひとつの初級魔法がいまだに生成出来ずにいる。


「そういえば…心が大事と言っていたな…」


(私はただ…アオイが笑顔でいてくれたら…)


「…違う」


キュリオは小さく首を振り、己の心と素直に向き合った。


「…そんなものはただの綺麗事だ…」




―――彼女の笑顔を私だけのものに―――…




「…っ…!!」


そう強く願ったキュリオの両手から、大きな変化が生まれ始めた。



「…出来た…?」



「…アオイ…っ!!アオイ!!!」



降り注ぐ何かに頭上を仰ぎ見たキュリオは頬を染め飛び上がり、興奮した様子でアオイの部屋に飛び込んでしまった。


「…セシエル様!彼女に見せたいものが…っ…」


しかし…喜びと興奮に息を弾ませたキュリオが見たものは…


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