狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

その73

「…大丈夫、です…、…っそれより九条と大和はどこに…っ…」


少年から湯殿という言葉が出たのには理由があった。
ただ汗をかいている彼のためにそう言ったのではなく、もちろん別の意味があるからだ。


「…九条は居るぜ、大和は…出かけてる」


仙水から瞳をそらした少年はどこか気まずそうに視線を泳がせる。すると…


「仙水」


新たな声がして二人が顔を上げると…


「…九条…っ…」


黒衣に身を包んだ無表情な男が目の前に立っていた。

仙水はよろよろと近づき、彼の衣を強く引き寄せ言葉を絞り出した。


「…っ大和が…っ…負わせた怪我で…もし彼女が…っ…」


打ちひしがれた仙水が力なく項垂れる。しかし…



「普通の人間ならば死んでいるだろうな」



「……」



いつものように表情を変えぬまま残酷なことを口にした九条。

それはまるで、あの出来事に終止符を打つような…仙水が諦め、目を背けるよう仕向けられている気がする。


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