狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
アレス、見上げていたあの場所へ
「アレス、お前にアオイの部屋へ立ち入る事を許可する。そこにカイがいるはずだ」
不機嫌さをあらわにしたキュリオは、普段最上階への出入りを許可していないアレスへ立ち入りを許した。これが通常時であるならばアレスも喜ばしい事なのだが…
「…畏まりました。ただちに…」
広間を出ると急ぎ足で通路を行くアレス。
清々しい空気を肌に感じながら平静を装う知的な顔とは逆に内心ひどく焦っていた。
(…アオイ様の部屋って…カイのやつ一体何をやらかしたんだ?)
時折すれ違う女官たちと短く挨拶を交わし、ひたすら階段を駆け上がる。
アレスがよく足を運ぶのはキュリオの執務室のある階までで、それよりさらに上を目指すと…
心なしか最上階へ近づくたびに空気が澄んでいるような気がしてならない。
(…キュリオ様のお力が最上階に色濃く満ちているんだ…)
眼下に広がる絨毯はより一層豪華なものへと変化し、アレスは未知の領域へと足を踏み入れる。
(アオイ様の部屋、キュリオ様はすぐわかるとおっしゃっていたが…)
階段の突き当りはちょうどバルコニーになっていた。
(いつも見上げてばかりだったあの場所がここか…)
憧れの王と幼い姫。二人が昼夜問わず、この場所に姿を現すことは珍しくなかった。
アオイは特に見知った顔が庭を歩いていると手を振りかえしてくれたりもして、接している側が身分の違いを一瞬忘れるほど自然な仕草を見せた。彼女のそのような態度を父親であるキュリオが咎(とが)めはしないかと、内心ひやひやしている者たちも多かったのだが…傍らに佇むキュリオは優しい笑みを浮かべていた。
そしてその笑顔に驚いた者たちが多いのはいうまでもない。
彼に長く仕える大魔導師・ガーラントの話によれば…
あの場所から一人、悠久の大地を見下ろしていた頃のキュリオはいつも無表情で他を寄せ付けぬ王としての威厳のほかに、どこか近寄りがたいイメージが常に纏わりついていたという。
しかしアオイが来てからというもの…キュリオに一番身近な彼女が身分を感じさせない大らかな振る舞いを見せるため自然と彼に対する印象もどんどん丸くなり、事実キュリオはよく笑うようになったのだ。
それらは彼女に感化され、変わっていったと思いきや…その笑顔のほとんどがアオイにのみ向けられているものなのだ。
(完全無欠なキュリオ様…お心を砕かれるのも、こうしてお怒りになるものすべてアオイ様がらみ…)
(となると…)
バルコニーを曲がったところで、遠くに可愛らしい扉を見つけることが出来た。
(銀の装飾が施された扉…)
悠久の国で"銀色"は特別な意味を持ち、すなわちそれは"王"を表している。
ここが共に銀を纏うことを許され、絶対的なキュリオの愛を一身に受けた娘…アオイの寝室であることは明らかだった―――。
不機嫌さをあらわにしたキュリオは、普段最上階への出入りを許可していないアレスへ立ち入りを許した。これが通常時であるならばアレスも喜ばしい事なのだが…
「…畏まりました。ただちに…」
広間を出ると急ぎ足で通路を行くアレス。
清々しい空気を肌に感じながら平静を装う知的な顔とは逆に内心ひどく焦っていた。
(…アオイ様の部屋って…カイのやつ一体何をやらかしたんだ?)
時折すれ違う女官たちと短く挨拶を交わし、ひたすら階段を駆け上がる。
アレスがよく足を運ぶのはキュリオの執務室のある階までで、それよりさらに上を目指すと…
心なしか最上階へ近づくたびに空気が澄んでいるような気がしてならない。
(…キュリオ様のお力が最上階に色濃く満ちているんだ…)
眼下に広がる絨毯はより一層豪華なものへと変化し、アレスは未知の領域へと足を踏み入れる。
(アオイ様の部屋、キュリオ様はすぐわかるとおっしゃっていたが…)
階段の突き当りはちょうどバルコニーになっていた。
(いつも見上げてばかりだったあの場所がここか…)
憧れの王と幼い姫。二人が昼夜問わず、この場所に姿を現すことは珍しくなかった。
アオイは特に見知った顔が庭を歩いていると手を振りかえしてくれたりもして、接している側が身分の違いを一瞬忘れるほど自然な仕草を見せた。彼女のそのような態度を父親であるキュリオが咎(とが)めはしないかと、内心ひやひやしている者たちも多かったのだが…傍らに佇むキュリオは優しい笑みを浮かべていた。
そしてその笑顔に驚いた者たちが多いのはいうまでもない。
彼に長く仕える大魔導師・ガーラントの話によれば…
あの場所から一人、悠久の大地を見下ろしていた頃のキュリオはいつも無表情で他を寄せ付けぬ王としての威厳のほかに、どこか近寄りがたいイメージが常に纏わりついていたという。
しかしアオイが来てからというもの…キュリオに一番身近な彼女が身分を感じさせない大らかな振る舞いを見せるため自然と彼に対する印象もどんどん丸くなり、事実キュリオはよく笑うようになったのだ。
それらは彼女に感化され、変わっていったと思いきや…その笑顔のほとんどがアオイにのみ向けられているものなのだ。
(完全無欠なキュリオ様…お心を砕かれるのも、こうしてお怒りになるものすべてアオイ様がらみ…)
(となると…)
バルコニーを曲がったところで、遠くに可愛らしい扉を見つけることが出来た。
(銀の装飾が施された扉…)
悠久の国で"銀色"は特別な意味を持ち、すなわちそれは"王"を表している。
ここが共に銀を纏うことを許され、絶対的なキュリオの愛を一身に受けた娘…アオイの寝室であることは明らかだった―――。