狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
Ⅶ―ⅸ 不穏な空気
「あ、はい…」
すっかり話を折られてしまったアレスは気の抜けた言葉を返した。
「気を付けなければならないのはどこの国も同じだよ。加護の灯があれば手は出してこないさ」
「それでも不安なら別の者に頼むから無理はしなくていいんだよ」
あくまでもキュリオはアレスの意志を尊重しガーラントの説得にまわったのだ。しかしアレスが望まないのならキュリオも無理に行かせるつもりはない。
優しく言葉を発するキュリオを見つめていたアレスは、大きく頭を振り…
「いいえ!私に行かせてくださいっ!!」
と勇んだ。その声に振り返った侍女たちは、赤子にミルクを飲ませながら
「おや、アレス坊や…お使いかい?」
「頑張るんだよっ!」
と口々に応援してくれている。彼の希望に満ちた顔はとても凛々しく、キュリオとガーラントは視線を絡ませ小さく頷いた。こうしてアレスは未来を担う魔導師の一員として大きな一歩を踏み出すのだった――――