狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
怪しい動き
日が落ちると同時に鮮やかな提灯が幾重にも軒下に連なると、暗い水の上に築かれたこの料亭は御伽の世界から飛び出した古風なひとつの城にも見えた。
普段より敷居の高いことで知られるこの料亭のもてなしは一流で、特に夜…ここにやってくる客も皆、それ相応の名のある者たちのみが利用出来るというのは地元では有名な話だった。
そしてその建物から出てきたのは藤色の髪を結った女性で、裾の長い着物を揺らしながら男の前を通過していく。
「姐さんお出かけですかい?御予約されたお客さん、もうすぐお見えになる頃かと…」
「…すぐ戻るわ」
「へ、へい…ですが、共も連れずに…?」
「そうね、必要ないけれど…じゃあその番傘を借りようかしら」
「…番傘でよいので?」
「お前は顔を隠せと言っているのではないの?」
「それもありますが…最近通り魔がでると聞きますし、護衛は必要ないのかと思いまして…」
「…いらないわ」
男から真紅の番傘を受け取ると、切れ長の瞳だけを左右に動かした女はそのまま姿を消してしまった。
普段より敷居の高いことで知られるこの料亭のもてなしは一流で、特に夜…ここにやってくる客も皆、それ相応の名のある者たちのみが利用出来るというのは地元では有名な話だった。
そしてその建物から出てきたのは藤色の髪を結った女性で、裾の長い着物を揺らしながら男の前を通過していく。
「姐さんお出かけですかい?御予約されたお客さん、もうすぐお見えになる頃かと…」
「…すぐ戻るわ」
「へ、へい…ですが、共も連れずに…?」
「そうね、必要ないけれど…じゃあその番傘を借りようかしら」
「…番傘でよいので?」
「お前は顔を隠せと言っているのではないの?」
「それもありますが…最近通り魔がでると聞きますし、護衛は必要ないのかと思いまして…」
「…いらないわ」
男から真紅の番傘を受け取ると、切れ長の瞳だけを左右に動かした女はそのまま姿を消してしまった。