狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
怪しい二人
人通りを避け、番傘を手に持つ女はあえて暗がりを選びながら進みながら目の前をゆらゆらと風に乗って落ちる小さな木の葉を見つめている。
やがて顔を上げた女はあたりを見回すと…
「……」
古びた長屋の連なる方向へとさらに歩みを進めた。
すると…
―――ザッ
突如飛び出してきた黒い影に女の動きが止まる。
「…っ…」
「あれ…姐さん?なんでこんなところに…」
女は自分を"姐さん"と呼んだその男に見覚えがあった。
店の前で客を招き入れ、彼女に番傘を手渡したあの男だった。
(こいつさっきの…)
「…お前こそ。こんな街外れで何をしているの?」
「へ、へぇ…あっしはお客さんを迎えに来たんですがね、支度に手間取ってらっしゃるみたいで…外で待たされてるんですわ」