狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

二つの人格Ⅱ

いつの間にか湯殿へと通じる扉の前に立っていたマダラに男は小さく頷いた。


「畏まりました。食事を作り直して参ります」


男が再び料理をトレイに載せていくと立ち上がる湯気の量が先程よりも減っており、部屋に渦巻く冷気がかなり影響しているのだとわかる。


「では後ほど伺わせて頂きます」


と、頭を下げようとして既にマダラの姿がない事に気づいた。

すると彼は踵(きびす)を返しながら呟く。


「…今回は何を狩られたのでしょう」


<冥王>マダラの従者たちはその時の彼の人格で何が起きていたかを把握することに長けている。


やや口数の多い陽気なマダラでいることが常だが、<冥王>の大鎌が獲物を狩る時…まるで死神のようなマダラが顔を覗かせるのだ。


「どちらが本当のマダラ様なのか…」


比較的仲の良いヴァンパイアの王・ティーダなら彼を知っているのかもしれない。

やたらと悠久の王に噛み付きたがる第五位の王は怖い者知らずな部分があり、ちょっかいを出しては何度もキュリオに殺されそうになっているのだ。

そんな幼い彼を面倒みている…とは言い難いが、幾度となくその危機を救ってきたマダラ。


それらの行動は優しさの現れだという者がいるが…マダラの従者ならわかる。本当の彼は残酷で無慈悲、凶暴性においては五大国随一に違いなかった。


(ティーダ王は大方マダラ様の暇つぶしの玩具…)


困ったように小さく笑ったマダラの従者は完全に冷めてしまった料理を眺めると一礼して部屋を出て行った。



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