薫子様、一大事でございます!
スマホ2台じゃ支払いの負担が大きすぎて、解約してしまったのだった。
「こんな事務所を開いているくせに、携帯電話の一台もないって?」
北見さんは呆れ果てたようだった。
今まで、依頼らしい依頼もなかったこの事務所。
携帯で連絡を取り合うような事態にもならなかったのだ。
「……すみません」
「いや、俺に謝られても困るんだけどさ。スマホにしなくても、携帯なら維持費だってそんなに掛からないだろうから」
……そうよね。
携帯くらい持っていないと、いざというときに連絡が取れなくて困るわ。
……“いざ”っていうのが、いつなのか、どんな事態なのかは全く見当もつかないけれど。
3人は、いつでも連絡が取り合える状態にしておいた方がいいに違いない。
さすがは北見さんだわ。
私と滝山じゃ、そんなことも気づかなかっただろうから。
「銀さん、2台分用意しておいてもらってもいいですか?」
「はっ、かしこまりました」
滝山が仰々しく頭を下げた。