薫子様、一大事でございます!
呆然とする私の腕を北見さんが引っ張る。
後に続いて店内に入ると、思った以上に広いフロアが天窓から注ぐ光で眩しいほどだった。
ほぼ埋まっているテーブル席。
店員は私たちを見て、少し困ったように店内を見渡した。
「そこのカウンターでいいですよ」
北見さんのひと言に、店員の顔がパッと明るくなる。
「申し訳ございません。では、こちらへどうぞ」
案内されたのは、井上さんのテーブルとは離れた席だった。
「会話までは聞こえないな」
「……そうですね」
そう返事はしたけれど、正直、そんなことはどうでもよかった。