薫子様、一大事でございます!
「……そう、ですね……」
言われてみれば、その通り。
星野さんのことを考えているつもりが、自分の中の恋愛に対する理想を押し付けようとしていただけだということに気づかされた。
「カコちゃん、今日はもういいよ」
「……はい?」
「あとは俺が続けるから、事務所へ戻るといい」
「――で、でも、」
「いいから。な?」
私、とんでもないことをしたんだ。
北見さんが止めなかったら、井上さんに私たちのことがバレるところだった。
そんなことになったら、星野さんと井上さんはもう……。
…………。
「……怒ってますか?」
「怒ってないよ」
穏やかな眼差しが注がれる。
北見さんは私の頭をポンポンと撫でると、クルリと私を反転させて背中を押した。
「一人で帰れるか?」
コクンと頷いて、北見さんの指示に従った。