薫子様、一大事でございます!
「北見さん、もしや……。ちょっと失礼……」
そう言って滝山は、北見さんの額に手を当てた。
「これは大変です。北見さん、熱があるじゃございませんか」
――え!? 熱!?
「たいしたことないですから」
滝山の手をやんわりと外す。
「いやいや、自己判断は禁物ですぞ」
「そうですよ、北見さん、部屋で休んでください」
きっと、夕べの雨がたたったんだわ。
ずぶ濡れだったもの。
「今日は他にやることもございますまい。薫子様のおっしゃる通り、早いところお休みください」
「早く早く」
「ちょっ、何だよ」
北見さんの背中をぐいぐい押す。
「たまには私の言うことも聞いてください」
「そっちの方が恐ろしいんだけど」
熱があってもからかう元気はあるらしい。
北見さんはニヤリと笑って見せた。