薫子様、一大事でございます!
そんなことを考えながら、ギィギィとなる椅子に背中を預けていると、「おはようございます、薫子様」の声と共に、黒く光るヘルメットを抱えた滝山が入ってきた。
「おはよう、滝山」
「いやぁ、この頃は湿気が多くなってきましたねぇ。そろそろ梅雨入りでしょうか」
ポケットから取り出した大判のタオルでごしごしと顔を拭う。
そして、抱えていたヘルメットを大事そうにデスクの上へと置いた。
彼の名は、滝山銀二(たきやま ぎんじ)、65歳。
近頃は白髪も混じり始めたけれど、歳の割りに豊富な髪の毛はオールバック。
くっきりとした二重瞼に大ぶりの鼻は、沖縄出身らしい派手な顔立ちだ。
広い肩幅のせいか筋肉隆々に見えるその体は、実は脱ぐと逆の意味ですごいらしい。
(私は見たことはないけれど)