薫子様、一大事でございます!

「どうしてですか?」

「自分で出来るから貸してくれ」

「病人には優しくって、ついさっき私に言ったばかりですよ?」

「それとこれとは別問題」


何をそんなに意地になってるのかしら。

病人といったら、食事は食べさせてもらうのが普通。
……のはず。


少なくとも、私は小さい頃からずっと、お母様にそうしてもらってきたのだし。

北見さんの反応を気にせず、レンゲで掬い、そのまま北見さんの口元へ運ぶ。


「はい、あーん」

「だから、――ッ!」


口を開いたその隙間に無理矢理レンゲを押し込んだ。

ムグっと一瞬だけ北見さんがむせる。


そして、目を見開いたままそれを飲み込むと

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