薫子様、一大事でございます!
「別になんてことのない話だ。親がいない子供なんて、世界に五万といるぞ」
「そうですけど……」
北見さんがその一人だとは想像もしていなくて。
ポンポンと北見さんの手の平が、私の頭に触れる。
「カコちゃんにそんな顔をさせるつもりはなかったんだ」
北見さんが優しく微笑む。
その瞬間、胸の奥で何かが小さく音を立てた。
「北見さん……」
「ん?」
「大丈夫ですから」
「……何が?」
「具合が悪くなったら、また私が食べさせてあげます」
そうやっておどけることで、胸の奥の何かを誤魔化そうと企てた。
「プッ。それはそれは、頼もしいことで」
北見さんが笑う。
「それじゃ、私は行きますね。おとなしく寝ていてくださいよ?」
北見さんの風邪が長引いたら、事務所は困るし、私も……困る。
北見さんは「はいはい」と適当な返事をすると、するりとベッドにもぐりこんだ。