薫子様、一大事でございます!
「誰って……」
この事務所にその役を担える人物は、ただ一人だけ。
……私だわ。
「カコちゃんにできるのか?」
そう問いただされてしまうと、何も言い返せなくなる。
恋愛の“れの字”も知らない私。
そんな私が、フリなんて高等技術を使えるとは思えない。
恋愛経験がないことまで話したことはなくても、北見さんもどこかでそんな匂いを嗅ぎ取っていたのかもしれない。
だからそんなことを聞くのかもしれない。
――でも。
だからと言って、せっかく入った依頼を断るなんて。
仕事を選り好みしている場合じゃない。