薫子様、一大事でございます!

視界の片隅に映った滝山が「大丈夫ですか?」と口パクをする。


早川さんに気づかれないようにそれに頷き、北見さんへチラリと視線を移すと、北見さんは無表情でただこちらを見ていた。


「薫子?」

「あ、はいっ」

「どうかした?」


早川さんが、私の見ていた方に振り返るからギクリとする。

北見さんと滝山さんは、サッと身を正して一般客のフリで誤魔化した。


「早川さん、そろそろ出ませんか?」


そう言うことで、気をそらせようとすると


「“早川さん”? ”出ませんか”?」


早川さんがひと言ひと言、間違いを指摘する。

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