薫子様、一大事でございます!
口元から僅かに滴る血、青く滲んだ頬。
それらを見て、足がすくむ思いがした。
「どうしましょう、滝山。――と、とにかく救急車を」
どこかで電話を借りなくちゃ。
でも、どこで?
辺りを見渡す。
近くの家に駆け込むしかないかしら。
えっと、えっと……
「ちょっとお待ちくださいませ、薫子様」
私を手で制する滝山。
「なに、どうしたの? 滝山」
「救急車は呼んではなりません」
「……どうして?」
「もしも万が一、私たちの身元が割れるようなことがありますと、例の“DCH”に見つからないとも……。諦めきれずに、薫子様をお探しになっているかもしれません」