薫子様、一大事でございます!
繰り返してきた‘‘たられば’’
「薫子様、どこか具合でも悪いんじゃないですか?」
「どうして?」
「事務所を出てからずっと顔が赤いものですから」
「――ッ!」
ギクリとしてしまった。
赤い!?
まだ!?
事務所を出てから、かれこれ1時間以上は経ってるのに。
とはいっても、さっきから頭の中を占めているのは北見さんのことばかり。
抱き締められた腕の感触が身体にまだ残っていて……。
無意識に自分を抱き締める。
「寒いですか?」
「ち、違うの。全然寒くないし、どこも悪くなんて」
自分でも不自然だと思うほどのリアクション。
滝山に指摘されたおかげで、更に頬が熱くなる。
そんな顔をまじまじと覗き込まれたものだから、咄嗟に身体を反らせた。
これからお父様とお母様に会うというのに。
心の天秤は大きく北見さんに傾く。
電車の外を流れる景色なんて、今まで全然目にも入っていなかったくせに「綺麗な景色ね」なんて言って誤魔化した。