薫子様、一大事でございます!
その言葉に安堵する。
もう一度タオルを当て、唇の脇の血を丁寧に拭った。
ここは冷やしてあげた方がいいのかしら。
赤くなった頬に洗い直したタオルを当てる。
すると、今まで眉間に寄っていた皺がなくなり、少しだけ安らかな顔になった。
こんな目に遭うだなんて、一体どんな人なのかしら。
軽い癖のある、闇夜のように黒い髪。
自然な弧を描く、整えられた眉毛。
ほどよく肉厚の唇は呼吸の度に微かに動き、羨ましいほど筋の通った鼻は、思わず自分と比べて軽くショックを受けた。
「薫子様、どうかなさいましたか?」
「……ううん、何でもないわ」
思えば、家族や滝山以外にこれほど身近で見た男の人は初めて。