薫子様、一大事でございます!
容疑者は、すぐそこに
閉店後、食事に行こうという荒野社長の誘いを麻紀さんは丁重に断って、私とタクシーに乗り込んだ。
「お断りして大丈夫だったんですか?」
窓の外を見てみると、荒野社長は私たちが乗ったタクシーを少し寂しそうな顔で手を振っていた。
「いいのいいの。毎回誘いに乗っていたら、身体がいくつあっても足りないでしょう?」
麻紀さんが笑い飛ばす。
……もしかして、私を気遣って断ったのかな。
「あの、ごめんなさい」
麻紀さんが、何を?という顔で私を見る。
「私が一緒だったから断ったんですよね?」
「やだ、違うわよ。お店以外でも易々会えるんだと思われたら、店に来てくれなくなるじゃない」