薫子様、一大事でございます!
「つ、付け狙うだなんて! そんなんじゃありませんから!」
男性が声を荒げる。
北見さんが麻紀さんを見てギョッとしたのは、そういう訳だったからだ。
麻紀さんは口元に手を当て、恐ろしいものでも見るようにその男性を見つめた。
「麻紀さん、部屋へ戻られていた方が」
「……いえ、私も話を聞きたいわ」
北見さんの提案を麻紀さんが断る。
そして、私同様に男性の前へ回り込むと、大きく深呼吸をして向かいのソファに腰を下ろしたのだった。
「誰なの、あなた」
鋭く刺すような口調で問いただす。
これには男性も驚いたようで、肩をビクンとさせて上半身を後ろへ仰け反らせた。