薫子様、一大事でございます!

そして、無情にも車が走り出す。


「――と、止めて! 降ろして!」

「無理ですよ、薫子さん」


隣でDCHがいやらしく笑う。


「やっと見つけたんですから。いやぁしかし、あんな場所で会うとは、思いもしませんでしたよ」


あのとき、初対面の振りを装ったのは、私の方ばかりじゃなかったんだ。


「どうしてあの場所が?」


お店で見かけただけなら、ここに辿り着きようがない。


履歴書を提出したり、連絡先を教えたわけじゃないのだから。


「そんなの簡単ですよ。あの晩、薫子さんの乗ったタクシーをつけただけのことです」

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