薫子様、一大事でございます!
「春日! これは一体どういうことだ! 誰も入れるなと言ったはずだぞ!」
「は! 申し訳ございません! ですが、」
春日と呼ばれたさっきの黒尽くめの男が、困惑気味にDCHと女性を交互に見る。
「おかしいわね、ないわ」
這いつくばるような体勢で何かを探していた女性が、パッと顔を上げて私を見た。
――あれ?
どこかで会ったことがあるような……。
その女性も私を見て、口をポカンと開けたのだった。
――沙織さんだ。
恋人の振りをして会ったときの、相手の彼女。
名前を呼ぼうと開きかけた口は、沙織さんの何かを強く訴えるような視線で閉じた。