薫子様、一大事でございます!
その背中を見送りつつ、もう一度写真を手に取る。
黒と茶のトラ模様。
モモと名づけられた、どこにでもいそうな日本猫は、「捕まえれるものなら、捕まえてごらん」とでも言いたげに、不敵に笑っているようにさえ見えた。
……なによ。
絶対に捕まえてさしあげるわ。
今度こそ、ね。
ピーンとばかりに、写真を人差し指で弾いた。
「か、か、薫子様! い、一大事でございます!」
大慌てでやってきた滝山の顔は、洗顔途中だったのか、泡がついたままだった。
「どうかしたの?」
「なんと呑気な! どうかしたのじゃございません!」
滝山の一大事だという騒ぎっぷりにも、余裕で椅子にもたれたままにいられるのは、これがいつものことだからだ。