薫子様、一大事でございます!

沸点が相当低いのか、滝山の"一大事”が本当に一大事だったためしはない。


「こ、こ、これはどうしたのでございますか!?」


滝山がプルプルと震える手で持っていたのは、小さな虫かごだった。


「あぁ、それね。それは今朝、大家さんにお借りしたの」

「いえっ! 虫かごのことじゃございません! コヤツです、コヤツ! これは一体!?」

「夕べ窓を開けたときに、ブーンと飛んで入ってきたの」


子供の頃にはよく捕まえて遊んだと言っていたから、滝山も相当嬉しいらしい。

はしゃぎすぎて今にも踊りだしてしまいそうだった。


夕べは一度見失ってしまったけれど、帰り間際に洗面台のところで見つけて、咄嗟にコップを被せたのだった。


今朝、その話を大家さんにしたところ、珍しいこともあるものだと、快く虫かごを貸してくれたのだ。

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