薫子様、一大事でございます!
「射止めたなんて恥ずかしいじゃないか。でも……そうだねぇ」
芙美さんは私から写真立てをそっと取り上げると、愛しそうに旦那様の顔の部分を撫でた。
「真面目な人だったよ。その上、正義感も強くてね」
「男らしい方だったんですね」
芙美さんは頷きながら微笑んだ。
「若い頃は私もおとなしい女でね、」
それはちょっと意外かもしれない。
クスッと笑った私の肩を芙美さんがトントンと軽く叩いた。
「あるとき、電車で痴漢に遭ったんだよ」
「痴漢に!?」
「今の姿から想像しないでおくれよ? 何度も言うけど、若い頃はそこそこだったんだからね?」
ニンマリと笑う芙美さんに、私は黙って頷いた。