薫子様、一大事でございます!

「でも黙って耐えることしかできなくてね」


今だったらきっと、豪快な張り手でも飛んできそうだ。


痴漢を一撃必殺。
撃退してしまいそう。


「そこに現れたのが主人さ」

「旦那様が助けてくれたんですか?」


芙美さんが大きく首を縦に振る。


「痴漢の手をキリリとねじ上げてね。それはもうカッコよかったんだよ」


そのときの場面を思い出しているのか、芙美さんの視線が宙を舞った。


鮮烈な出会いのシーンだったんだと思うと、ちょっと羨ましかった。


「私にしてみたらヒーローさ。一瞬で恋に落ちちまったよ」

< 92 / 531 >

この作品をシェア

pagetop