薫子様、一大事でございます!
「でも黙って耐えることしかできなくてね」
今だったらきっと、豪快な張り手でも飛んできそうだ。
痴漢を一撃必殺。
撃退してしまいそう。
「そこに現れたのが主人さ」
「旦那様が助けてくれたんですか?」
芙美さんが大きく首を縦に振る。
「痴漢の手をキリリとねじ上げてね。それはもうカッコよかったんだよ」
そのときの場面を思い出しているのか、芙美さんの視線が宙を舞った。
鮮烈な出会いのシーンだったんだと思うと、ちょっと羨ましかった。
「私にしてみたらヒーローさ。一瞬で恋に落ちちまったよ」