弟、時々恋、のち狼
「やめろって!
わかったから……ひっぱるなよ!!」


な……何……?


アタシを掴む手からパッと力が抜けて、かわりに、必死で頭の上の何かを捕まえようとあがく。


虫?
それとも鳥、とか?


まだ固まったまま動けずにいるアタシをよそに、彼は無事にその「何か」を捕まえたらしい。


キッ


甲高い鳴き声が聞こえたかと思ったら、両方の手の平でくるんだそれを、アタシの方に差し出した。


「ったく……。
まぁ、コイツの言うとおりかもしれないな。
覚えてなくて当然、だよね」


そうさらりと言う顔は、つい数瞬前とはまた、コロリとかわっている。
怒りは影もかたちもなくなって、浮かんでいるのは、最初に見た明るく人好きのする表情だ。


「今はこんな姿になってるけどさ。
ラッラだよ」


柔らかい笑みを浮かべて、そっと拳を開いた。



< 10 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop