弟、時々恋、のち狼
「先生……」


頭一つ分高い位置に、柔らかなロウの顔。
明るくて、凛々しくて。


「あはは。まだ学校モード?」


ちょっと緊張するアタシをおかしそうに見て、ぐいっと強く引き寄せた。

春とは言え、夜が近づいてくると空気は薄っすらと冷気を帯びる。
ロウのぬくもりが、嬉しい。


アタシがこのヒトに恋してるのは、錯覚なのかもしれない。
時々、思う。

「愛してる」
そんな夢みたいな言葉、言われたから……夢の中で一緒にいるから……その気になってるだけなのかもしれない。

ロウもまた、然り……。


でも、今この瞬間だけは、赤い糸の運命だと信じたい。


「早かった、ね……」


年上の、しかも先生。
なんと呼んで、どうしゃべればイイか、いまひとつ決めきれない。


「あぁ、定時で無理やり抜けてきたんだ」


どぎまぎと見上げた先で、にっこり笑う。

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