弟、時々恋、のち狼
アクビをかみ殺しながら座っていた職員席で、ふいに、自分がずっと一人の女生徒を見ていることに気がついた。

飾り気のない、大人しそうな少女。

セミロングの黒髪を自然に流し、伏し目がちに歩く姿。

パッと目を惹く魅力があるわけではない。
ただ、長い前髪に半ば隠された顔は、磨けば光る素材であることは間違いなかった。


何が気になるんだ?


自分に問いかけた。


かわいさで言えば、隣のクラスの前列の子の方が圧倒的だ。数年後ならいざ知らず……。

それでも、あの子一人を追ってしまう。


なぜ?


--ロウ。


ふいに、呼ばれた気がした。
懐かしい、声に。


それに呼応するかのように、少女の姿がぼやけていく。
制服を着た横顔に、別の横顔が重なった。

長く輝く衣をまとった神々しい、彼の人。


--ミイ…………。


美しく気高い、記憶の中だけの姉。


--我々が人であれば、あなたを愛せただろうに。


かすかにそんな思いすら抱いた、遠い記憶。


姉の幻は、現れた時と同じように、唐突に薄れていく。
微笑んだように見えたのは気のせいか。


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