弟、時々恋、のち狼
観測史

「なぜそんなことを考えるの?
知っているでしょう?それこそが、私たちの存在する意味なのだと」


幾度目の生からだったか。もう思い出すことはできない。
私たちの使命は自身の生を記憶することにはないのだ。


すべてを記録し、記憶する者。

時として、すべてを滅ぼし。


私たちの中にはこの世界の始まりからの膨大な歴史が蓄積されている。

歴史を留めておくためのもの。
歴史を作り直すためのもの。

生命とは違う。

役目を負った、機能の一つ。

私たちの、本性。


「なりたいかどうかではないの。
……たまたま今こうして人間に紛れていることがあなたに影響しているなら……すぐに独りで高い塔にでもこもるべきよ」


俗世を離れ、交わることなく観察できるよう。
このところ繁栄を極めている新参の生物を。


新参ではあっても、我々がこの、人間とかいうものの形をとるのは、初めてではない。
まだはっきりとした文明をもつ以前にも、紛れたことがある。


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