弟、時々恋、のち狼
     ※


「ラッラはどこ?」


小さな少女を探して、社の中をくまなく歩きまわる。
途中、行きあったすべての女官や宦官たちにも、一緒に探すよう言付けた。

探し始めて一刻と半。
それなのに、少女はいまだ見つからない。


「姉上」


呼ばれて、振り返る。

庭の先、まだ姿も見分けられぬほどの遠くに、馴染みの深い気配を感じた。


「見つけましたよ」


見えずとも、ロウの声だけはいつでもすぐそばから聞こえる。


見つかった。


その落ち着いた声色にホッと胸をなで下ろす。


「そう……良かった。
どこにいたというの?」


この3年。
まばたきするほどのこの短い間に、自分でも驚くほど、私たちは変わった。


「野苺の茂みの奥に」


泉の湧き出る庭へと足早に出る。

まだ、二人の影はない。

人を呼び、泉の端に柔らかで厚い布を用意させた。


「怪我は?」


「大丈夫。ありませんよ」


禊ぎ後に冷え切ってしまうだろう体を思い熱い飲み物の用意を頼んでいると、庭の生け垣を分けてロウが歩いてくるのが見えた。

スラリとした華奢な長身の腕には、小さな塊を大切そうに抱いている。


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