弟、時々恋、のち狼
「もちろんですわ、お社の遣いに手を出す愚か者なんてこの国にいるもんですか!
それより、ね!ワタクシ、カッシ湖で初めて舟に乗りましたのっ!」
元々賢く、よく気がつく子だ。意欲もある。
いつしかすっかり仕事も板につき、その暮らしを楽しんでいるようだった。
同じ女官同士、同等の立場として扱われるのも嬉しいらしい。
「それでね、これはミイ様に!こっちはロウ様にお土産ですっ」
目を輝かせ、言うなり、手にぎゅっと何かを握らせてくる。
「お土産?私たちに?まあ、なんて嬉しいこと」
こうして何かを気軽に渡しにくるのも、気安く肌に触れるのも、この世にたった一人しかいない。
握った拳を、そっと開いた。
手触りから、固くてゴツゴツとしたものだということがわかる。
「これは」
思わず驚きの声がもれた。
「カッシの塩の結晶だね」
ロウもまた、同じものを手のひらに乗せていた。
蒼く輝く、塊。
宝石のようなその見た目と、数の少なさで珍重されている高級品だ。