弟、時々恋、のち狼
北風と太陽
「瀧川さん」
気持ちのイイ朝。
部活の朝練のために、いつもよりほんの少し早く、家を出た。
通勤の大人たちで、思いの外、道行く人は多い。
ふいに、すぐ後ろから声をかけられた。
「……あ」
振り向くと、ツカサが、にっこりと立っていた。
「おはよう」
「おは……よう」
朝の陽に劣らないまぶしい微笑み。
つい、口ごもる。
「ちょっといい?」
ふんわりと、アタシを招いた。
なんだろう?
清々しい朝の空気と、ツカサの明るい笑顔に、警戒心が薄れる。
断る理由も、ない。
でも……。
どうしよう。
戸惑っていると、ツカサはさっさと歩き出してしまった。
アタシを追い抜くと、振り向きもせずに河原へ向かう小道へ入っていく。
「ちょっ……」
仕方なく、後を追った。